[ いつかふたりでこのみちを ] −後編より抜粋−
楓  
 どんな隙間だって赦さないほど密に巻きつけた指で逞しい逸物と寄りそわせた己を扱く。もう口説く余裕なんか無い。耳を竦ませて悦に抗う絶品の表情を暫く拝んでから鳩尾の下を一瞥した俺は、蚕の繭から生まれた大理石の肌と王侯貴族の為に供じられる絨毯の如く煌びやかな朱毛の、その中心で痛々しいほど主張している太い軸に殆ど暴虐的な恋慕を曳きずりだされてゆく。
「ンあ、は、はあ、っあ、あっあっあ……っ!」
 のたうつ胸元から塗りつけておいた泡の塊が股座まで降りてきて、ぬめりついた掌は潤滑油で倍に加速する。
 滑る爪で亀頭を抑えこんで樹液の湧きでる裂口を攻めたてる内に己を支える腕に力を篭めなおした獣が床を踏みしめていた踵を浮かせて、その脚は鎌で刈りとるような具合に俺を絡めとった。
 くねらせる下肢その物を武器に俺を追いあげる攻撃性が容易く本能の被膜を剥いてゆく。もしかしたら挿入の瞬間より興奮したかもしれない。急速に視野が絞られていって、湯汽に暈やかされる映像が曖昧に為るほど己の腹に溜まってゆく黒い澱は膨れあがった。
「うあ……すっげ、……くろす、ねえ、腰もっと烈しく揺らして、そう、あぁ……」
「っ、ン、貴様こそ、指、きつく……ふあ、っア、くう……っ」
 頷いて俺は望まれた通り輪の直径を縮めた。ぎちり、と、不当に戒められた陰棒が軋んで今にも暴発しそうな弾丸を塞きとめる。尿導を潰された喉が天蓋に晒されて高く叫べば反響は増幅されながら四方の壁を乱殴する。
「んあああっ、は、ア、ティキっ、もう―――」
 炎を吐くような呼吸に哀願が紛れこむ。できれば、もう少し終わりたくなかった。そんな寂寥が頬を擽っていったけれども次に託された台詞は俺の矜持を灼きつくした。
「い、っしょ、に……っ」
 煩瑣に痙攣する内股が左右から腰骨を圧迫するような形で強く宛がわれている。
 離すまい。
 そう願う心が伝わってきて、きつく俺は眼を瞑った。
「……うん」
 どうしようもなくって微笑が零れる。
「おいで、くろす」
 宙に泳がせていった片腕で林檎の頭を掻きいだいて己の方に抱きこんだ後は、どちらからともなく深遠に接吻けあった。
「ぅ……」
 忍ばせた舌で上顎を舐めあう傍ら唯々ひたすら残った右掌を破裂寸前の砲塔に忙しなく奉仕させる。しっかり束ねられた双筒は淫袋の内に醸成された潮を滾らせて射精を待ちわびている。ぎゅ、ぎゅっと厭らしく括れた輪郭を嬲って弾力を喪うほど硬直している事を確かめると、何故か俺に宿る戦慄は増徴した。
「はあ、はあ、はあっ、ん、っあああ……っ」
 苦悶と陶酔は鬩ぎあわない。その二筋は仲よく螺旋状に縒りあわさりながら骨髄の奥底から蔦を延ばしてきて、まもなく華の咲く刻を迎えると不可視の絆に変わって二人を結びつけた。端整な容貌に何も飾らない生の侭の劣情だけ秘めて、燃えあがった身体が尻尾を震わせて限界を物語る。




[ continued ]